本年度春から日本循環器学会が制度を開始した、『日本心不全療養指導士』に当院から看護師4名が受験し、見事全員合格しました㊗
心不全患者さんは高齢者が多く、社会の高齢化とともに患者数は年々増加しています。また、心不全という疾患は増悪による入院・退院を繰り返しながら死に至るという特徴があり、その増悪原因として不整脈・狭心症・高血圧などの医学的な要因だけでなく、塩分摂取の過剰や薬の飲み忘れ、動きすぎなど患者さんご自身や周りの家族・支援者が気づいてケアすることで悪化を防止できる要因が多くあります。このような包括的な視点から心不全患者さんをケアするためには、医者だけでなく看護師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師、臨床心理士など、多職種で協力して行う必要があり、実際に退院後の心不全患者さんに多職種による介入を実施したところ、その後の再入院が有意に予防されたことが報告されています(Rich MW, et al. N Engl J Med 1995; 333: 1190-1195)。
さて、心不全ケアに携わる多職種チームの構築は実はずいぶん前から行われておりました。具体的には各専門職が一同に集まり、週1回程度のカンファレンス(ミーティング)が行われ、それぞれの職種の立場から患者さんのケアで気づいた点などを話しあうわけですが、「船頭多くて船山に上る」とはよく言ったもので、多くは話がまとまらないか、医学的な方向に偏ってしまうかどちらかになることが多いです。皆さんは、医師が多職種チームのリーダーであり、ミーティングを先導すれば良いとお考えになるかもしれませんが、これはむしろ逆効果です。なぜなら、多職種で話し合う場合、医師が前面に立って意見を述べると多職種からの大事な声が消されてしまうことが多いからです。そもそも前述した通り医学的要因ではないところに心不全の増悪因子があることが多く、そこにいち早く気づきケアを実施することが多職種協働ケアの目的ですから、医学的観点でしかものを言えない医師が発言し、司会進行することは本末転倒なのです。そこで、心不全チーム医療のリーダーは医師以外の医療専門職が担い、心不全の専門的な知識を身につけかつ多面的なアプローチを駆使し、病院から在宅、地域医療まで幅広くサポートする『心不全療養指導士』が日本循環器学会主導のもと設立されました。心不全療養指導士は自身の専門分野以外の他職種との連携、さらには地域医療との連携も行いながら、患者中心のチーム医療のキープレイヤーとなることが期待されています。
本年度が第一期生となる『心不全療養指導士』に当院から4名の看護師が応募し、昨年12月に東京で行われた認定試験を受講しました。そして、見事4名全員が合格しました😊 おそらく病院ではなく当院のようなクリニックから心不全療養指導士が4名も輩出するのは道内で初めてではないかと思います。私はクリニックこそ、基幹病院と在宅医療をつなぐ、バイパスとしての役目を果たす重要なポジションだと考えています。昨今、病院の入院期間はどんどん短縮しており、その結果、入院期間中に疾病管理の療養指導にかけられる時間はさらに短くなっています。特に療養指導は患者さんの行動変容を最終目標としていますので、ローマの道は一日にして成らずで、時間をゆっくりかけ患者さんそれぞれが置かれた環境に沿った現実的な指導でないと、実際は役に立ちません。ただ、心不全だけでなく様々な疾患が来院する忙しい外来診療の中で、どこまで療養指導に関わることができるかまだまだ未知数ではありますが、ぜひ、当院の4人の心不全療養指導士にはそのリーダーシップをいかんなく発揮して欲しいと期待しています。