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第87回 日本循環器学会に参加しました

2023年3月10日(金)~12日(日)にかけて福岡で開催された第87回日本循環器学会に参加してきました。毎年2万人近くが参加する循環器界では日本で最大の学術集会です。

大会長は九州大学循環器内科の筒井 裕之 教授で、以前、私が北海道大学に在籍時に直接、ご指導いただいた先生です。11日(土)には筒井教授の会長講演が行われ、その中で私が大学院時代に研究した内容をご紹介頂き、大変恐縮するとともに、筒井教授のこれまでなされてきた壮大のお仕事の一部に参加できたことを本当に光栄に思いました。

さらに、『心不全における骨格筋異常』の英語セッションでは、この分野のオピニオンリーダーであるVolker-Adamsの基調講演の後、北大時代にご指導頂いた先生、一緒に仕事をした後輩の発表を拝聴しました。この分野のさらなる解明・研究の発展が、心臓リハビリテーションの深い理解には必要不可欠であること、様々な併存症で運動するのが困難な高齢者に対しても、運動に代わる新たな治療法の開発つながると確信しました。

私もJCCN (日本循環器開業医ネットワーク)の企画セッションにて、「クリニックの症例から学ぶ日欧米の循環器ガイドライン」というテーマで講演してきました。
講演内容としては、米国が最近改定した心不全の診療ガイドラインに照らし合わせて、実際のクリニックでの日常診療で経験した症例をどのように診断・治療し、経過を辿ったのかをまとめました。高齢心不全患者が増えるとともに、高血圧・糖尿病などの心不全のリスクがある生活習慣病、さらに心臓に何らかの構造的な異常や心不全マーカー(BNP、NT-proBNP)の上昇をきたす心不全予備群が増えています。いかにこれらの心不全リスクの高い方や予備群をBNP/NT-proBNPを使ってスクリーニングし、新たに使用可能となった心不全治療薬で治療していくかが心不全の発症予防に重要ではないかと述べました。大学病院や基幹病院では重症心不全ばかり診療するため、意外とその前段階・軽症の患者さんを発症予防まで意識して診療することは少なかったように思います。クリニックでの診療経験から、心不全になる前にどうやって予防するか、予防医学をより意識した診療スタイルに変わりました。その意識が循環器医療を担う日本全国のドクターと共有できれば良いなと思います。

日本循環器学会 地域のかかりつけ医と多職種のための心不全診療ガイドブックより引用・改変

しかも、本学会にはカナダで留学中にお世話になったボス、Dr. Gary Lopaschukが海外からの招待演者として来日され7年ぶりにお会いし、自転車で足を悪くされ松葉杖を使用されていましたが、変わっていないボスの笑顔は懐かしく、「Hi, Arata」と声をかけてくれました。彼が人生をかけてぶれずに追い求めてきた『心不全の病態基盤としての心筋代謝の変化』は、実際に、近年血糖降下薬かつ心不全治療薬として注目されているSGLT2阻害薬によって臨床でも事実であったことが今になって証明されています。カナダにいた時はお金がなく生活するのも苦しくて、日本らしいものは何もあげられなかったので、夫婦箸や日本製ボールペン、北海道のお菓子をプレゼントしました。同じラボのCoryやLiyan、Sonia、Khushmol、Natasha, Tariq、Abhishek、当時の仲間を今でも思い出しますが、カナダの経験があったからこそ今の自分のクリニックでの挑戦があります。

 

さて、本学会もコロナの影響で2年ぶりの現地開催となり、普段は直接会えない同輩や先生方と直接お会いする貴重な機会でもあります。開催地が福岡ということで、博多ラーメン、あら鍋、お寿司など博多グルメを堪能しつつ、交流を深めました。


土曜夜は開業医ネットワーク (JCCN)の先生方と、あの心不全の在宅医療で有名なゆみのハートCLの弓野先生やYouTuberとしても著名な大西ハートCLの大西先生らと、開業医同志しか共有できない経営や労務の悩み、かかりつけ医としての将来あるべき姿など、会食しながらざっくばらんに話し合うことができ、貴重な時間を過ごしました。

今回、循環器学会の全体的な印象としては、2021年に学会主導で新設された新たな資格「心不全療養指導士」のセッションがとても多く目につきました。高齢心不全患者が増加するとともに、これまで治療ゴールであった生命予後の改善ではなく、その人らしい生き方を全うできるかどうかといった生活の質を重視した治療に変わってきています。そのような治療目標は医学的観点から考えることをトレーニングされた医師よりも、患者の傍で訴えを身近に聞くこと(ナラティブ)を訓練された看護師や理学療法士を始めとしたコメディカルの方が得意だったりします。心不全療養指導士は、心不全という疾患に特化してコメディカルが専門的に知識を習得し、お互い連携して「療養指導」や「疾病管理」を行い、心不全を予防・治療する新たな専門資格として大変注目されています。

当院からも、これまで4名の心不全療養指導士を輩出していますが、今年、新たに2名の心不全療養指導士が合格しました!!お二人とも、これまで呼吸器科や消化器内科など全く異なる分野で活動してきた看護師ですが今回、心不全療養指導士に認定されましたので、今後その資格をどのように発揮できるか、今からとても楽しみです。


福岡のもやがかかって幻想的な夜を後にして、循環器学会で得た知見や刺激を明日からの日常の診療の糧にしたいと思います。