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外来心臓リハビリテーションが盛況です

4月3日から分院5Fでスタートした外来心臓リハビリテーションへの参加者が順調に増えています。

外来心臓リハビリテーション(以下外来心リハ)については、分院ホームページに詳しく掲載されていますが、

・改めて心リハって何?

・なんで外来でリハビリしなきゃいけないの?

・費用はどれくらいかかるの?

という基本的なことからもう一度おさらいしたいと思います。

心臓リハビリテーションとは、狭心症や心筋梗塞、心不全、下肢閉塞性動脈硬化症、心臓手術後など、何らかの心血管病を有する患者さんが入院あるいは外来にて急性期治療を受けた後、その後の再発や再入院を防止することを目指して行う包括的プログラムです。あくまで包括的プログラムですので、運動療法だけではなく、食事指導や疾病管理、病気に対する学習、相談(カウンセリング)なども含まれます。

ここまでお話すると、「私は心臓病はないから関係ないや」と思われるかもしれません。しかし、心臓病は実は高血圧だけ、あるいは脂質異常症だけの患者さんでも気づいていないだけで初期の心臓病の変化は起こっていることが多々あります。

例えば、高血圧の場合、心臓の中の血液を全身へ向けて拍出する際に、大きな負担になります(これを心臓にとっての後負荷と言います)。普段100mmHgの血圧の方が200mmHgへ上昇したとすると、1回の心臓の拍動で2倍の圧力がかかります。心臓は1日で10万回も拍動しますので、ダンベルに例えると50kのダンベルを100kgに増やして1日10万回筋トレしているようなものです。筋肉が肥大するように、心臓も心筋細胞の集まりであるため肥大してきます。

骨格筋が肥大するのはマッチョになって良いのではないかと思われるかもしれませんが心筋が肥大すると、心臓の収縮は良くても、拡張能(広がりやすさが)が低下します。心臓は肺静脈を経由して肺で酸素化された血液を左心房で受け止めて、左心室へ流れ充満させますが、左室が肥大し拡張障害が起こると、左心房で血液がうっ滞し左房圧が上昇します。その結果、肺静脈圧の上昇から肺うっ血をきたし、呼吸困難や息切れといった心不全症状が出現します。

高血圧の患者さんに心エコー検査を詳細に行うと、この左心房の径、あるいは容積が大きくなっていることが多々あります。左心房は前が気管分岐部、後ろが大動脈弓に挟まれているため、前後に大きくなりずらく、通常の前後径だけでは左心房の大きさを過少評価することがあります。よって、左心房の大きさの評価では必ず面積を計測して、左心房全体の容積として算出しなければ、高血圧による初期の左房の構造的変化(左房リモデリング)を見落とす可能性があるのです。

このような高血圧による左室肥大、左心房の拡大に加えて血中BNPの測定が心不全の診断には極めて有用です。BNPは心室の壁応力(伸展ストレス)に反応して、心室から分泌されます。高血圧による左室肥大や拡張障害が生じると、左室充満圧の上昇をきたし左室心筋が引き延ばされるため、結果、血中BNPは上昇してきます。

BNPはBNPとNT-proBNPと2種類の測定方法がありますが、いずれもわずかな上昇(例えばBNPで40 pg/mL以上、NT-proBNP 125 pg/mL以上)であっても、心不全予備軍であることを示唆し、実際に高血圧単独では心不全Stage Aですが、BNPのわずかな上昇や上述した左室肥大や左心房の拡大の所見があれば心不全はStage Bへと進行したことになります。心不全Stage Bはまさに心不全予備軍であり、いつ心不全兆候が顕在化するStage Cへ悪化してもおかしくないため、Stage A,BのうちにいかにStage Cへと進展させない降圧管理が極めて重要なのです。これらのStage A, Stage BのBNPを用いた鑑別は、近年の欧米の臨床ガイドラインでも特に強調されています。

このように、当院では高血圧患者さんでは心エコー検査による左心房の詳細な評価、ならびに血中BNP値を全例で検査していますが、Stage A(高血圧症単独)だと思っていた方が、意外にも左房拡大やBNP上昇があることが新たに分かり、実は既にStage B (心不全予備軍)であったという症例は全体の40%にも及びます。

つまり、いかに我々が現場で心不全予備軍を見逃してきたか、これは循環器専門医であっても検査をして初めてStage Bであったと気づかされるくらいですから、循環器非専門医だともっと多くの症例が見逃されていると思われます。

さて、このような心不全予備軍であるStage Bの高血圧患者さんに心肺運動負荷検査による運動耐容能(運動能力、全身持久力)を測定すると、これも多くの症例で正常の80%以下しか運動能力がないことが判明します。つまり、Stage Bに留まらず、運動耐容能低下、運動時の息切れなど心不全症状を有するStage Cの一歩手前まできているというわけです。高血圧による心不全の病型は一般的に左室駆出率(心臓固有の収縮能)が保たれたHeart Failure with preserved ejection fraction (以下HFpEF)をとることが多く、高齢者に多いHFpEFでは心エコーだけでは診断が難しく、最近ではHFAPEFスコアややH2HFPEFスコアを用いてより簡便にHFpEFの診断が可能となりました。スコアリングには肥満や2剤以上の降圧剤の服用、心房細動の有無、高齢、心エコーでの左室充満圧や肺動脈圧を変数として点数化し、6点以上でHFpEFの診断となります。このように、当初は単なる高血圧と思っている方も実は心不全予備軍だったり、さらに運動耐容能の低下が証明され、上述したHFpEFの臨床スコアからHFpEF(つまり心不全)と診断される方は決して少なくありません。このような高血圧によるHFpEF、あるいはその予備軍(最近ではpre-HFpEFと呼ばれます)では下記基準を満たせば心臓リハビリテーションの適応が十分あるのです。心臓リハビリテーションによって、血圧管理が容易になるだけでなく、HFpEFの増悪や再入院を予防し、さらには心不全の発症自体を予防することが可能です。

まさに、「心不全予防のための攻めのリハビリテーション」とでも言えば分かりやすい外来心リハですが、残念ながら本邦における外来心臓リハビリテーションの参加率はまだまだ低く、本来は対象の患者さんのわずか7%しか実施しておりません。これは極めて由々しき事態です。心不全に対して早期に外来心リハに参加すると、心不全増悪や再入院を予防することが報告されているため、高血圧に起因した心不全予備軍の患者さんを積極的にスクリーニングし、外来心リハへの参加につなげれば、高齢心不全患者であっても長生きできるだけでなく、元気に生涯を全うする(いわゆる健康寿命)を大きく延伸させるため、一人でも多く、外来心リハに参加して頂きたいものです。

心臓リハビリにかかる費用ですが、まず大前提として、外来で実施する心臓リハビリテーションは全て医療保険でカバーされますので、自己負担分しか費用は発生しません!!

実際に心臓リハビリは通常1回60分(3単位)ですので、20分(1単位)は約2,000円になります。よって、1回の心臓リハビリに対する自己負担額は、3割負担の方で約1800~2700円。1割負担の方で600~900円です。

心臓リハビリの実施期間は起算日(心不全の診断確定日)から150日間と決められており、それ以後はDrが必要だと判断した症例においては、最大週1回のリハビリ通院は医療保険を使用して可能です。5F建てから麻生の風景が一望できる、360°パノラマで眺めが良い中、最新の運動機器であなたも明日から心臓リハビリに参加しませんか?

心臓リハビリをご希望の方は、まずは分院 あさぶハート・心リハクリニック(電話番号 : 011-792-0222)あるいは分院ホームページまでぜひお問い合わせください!!