「サルコペニア」
という用語をご存知でしょうか。最近、医療者の間の研究会では必ず出てくるこの言葉。もとはギリシャ語で高齢者が『サルコ=筋肉』と『ぺニア=欠乏』になる状態、つまり「加齢に伴う骨格筋量の減少」を意味します。
50歳以降は毎年1-2%低下するという筋肉量は70歳には約30%低下することになりますが、平均寿命が80歳を超える日本では20歳代の半分の筋量になると考えると単なる加齢による臓器障害だけではなく、動けなくなったり寝たきりが増えるのは必至です。
さらに言うと、筋肉=骨格筋は「第二の心臓」というほど重要です。特に足の筋肉量が減れば足が浮腫みやすくなりますし、ひとたび心不全になったときは動いた時の負担が直接心臓にかかるため、心不全の症状が悪化します。実際に、筋量が少ない心不全患者ほど寿命が短いことが報告されています (Fulster S, et al. Eur Heart J. 2013 Feb;34(7):512-9.)
逆に言えば、例え心不全のような心臓病の終末期でさえ、筋肉量さえ維持できれば寿命を延ばすことが可能なのです。
私が北海道大学でやってきた研究のテーマの一つが「心不全における骨格筋障害」です。骨格筋量を評価する方法はいくつかありますが、私達の研究グループはエコーを用いて手軽に骨格筋量を評価できることを論文に発表し、全身の持久力とよく相関することを見出しました(Nakano I, Hori H, Fukushima A, et al. Enhanced Echo Intensity of Skeletal Muscle Is Associated With Exercise Intolerance in Patients With Heart Failure. J Card Fail 2019)
筋肉量を維持するためには加重をかけて行うレジスタンストレーニング、つまり筋力トレーニング(筋トレ)が重要です。ただし、筋トレはジョギングなどの有酸素運動に比べて血圧や心拍数が上がりやすいため、心臓病の患者さんでは低負荷(1回だけできる最大の負荷量:1RM)の20~30%を5~10回反復 (1-3セット)から開始しし、徐々に負荷量を40~60%で8~15回反復 (1-3セット)へ増やす必要があります。
1回だけできる最大の負荷量 (1RM)は実際はなかなか測定することが難しいため、次のように計算して下さい。12回だけ挙げられる重りは1回しか挙げられない重りの7割程度の負荷量になります。例えば、10kgの重りを12回挙げられたとすると、10÷0.7=14kgとなり、この14kgの0.2倍 (3kg程度)から開始して、0.6倍 (8kg程度)を8~15回反復し最大3セットまで行います。筋力トレによって生じた筋線維の損傷が回復するのに少なくとも2日はかかりますので、週2~3回を目安に行ってください。
あるいは、低強度(最大負荷量の30%)であっても動作をゆっくり行うことで筋量・筋力増加が期待できると報告されていますので、このスロートレーニングは心不全患者でも応用可能です。
これまで、高血圧や脂質異常症、あるいは肥満(メタボ)にはジョギングや自転車などの有酸素運動ばかり強調されてきましたが、特に高齢者や慢性疾患においては筋トレの重要性が明らかになっています。筋力をつければ基礎代謝が上がりますので痩せやすい体になります。冬の北海道では寒さのため外でジョギングすることは現実的に難しいでしょう。そんな時は、家で筋トレ(うちトレ)をお勧めします。私もつい最近からうちトレを始めてみました(笑)。100歳まで健康に過ごすために、40歳を超えたら今のうちから筋トレをして筋力を高めましょう!!