コロナウイルス感染症は色々なところに影響を与えていると感じます。特に最近、クリニックに来られる患者さんで「動悸」を訴える人が増えている印象です。
「動悸がする」、「ドキドキする」、「心臓がバクバクする」、おそらく不整脈を疑って皆さん受診されるわけですが、「不整脈」といっても様々な種類があり、名前も「心室期外収縮」や「心房細動」などなにやら小難しいものばかりです。私はいつも机を叩いてリズムを示し、感じられている動悸が「脈が速くなるタイプ」か「脈が遅く感じるタイプ」か、あるいは「そのどちらでもないが脈が強く感じるタイプ」か、さらに「規則正しく打つ」か、「規則正しいが、急に脈が飛ぶ感じ」か、「全くバラバラで不規則な感じ」か、よくお話を伺うようにしています。
心電図はもちろん重要な検査ですが、せいぜい1分間程度しか記録されませんのでたまたま不整脈が起こっていなければ検出できません。そのため、不整脈を疑う場合は少し長めに心臓の音を聞きます(聴診)。それでも不整脈かどうかはっきりしない場合、24時間記録するHolter心電図をお勧めしています。以前は弁当箱程度の大きな機器を24時間携帯しなければいけませんでしたが、最新のHolter心電図はわずか5cm四方、重さ57gで胸に直接添付する極めて簡単なものです。付けながら仕事することも可能で、しかも翌日返却して15分程度で解析が終了します。
さて、不整脈は色々な種類がありますがここではよく健診で指摘されたり、動悸として自覚することが多い「期外収縮」について紹介します。
「期外収縮」とは名が体を表すように、予期せぬ(予想外)に早期に起こる収縮です。心臓は上下(心房と心室)に場所が分かれていますが、この予想外の刺激が上(心房)から起こるものを上室性期外収縮(PAC)、下(心室)から起こるものを心室期外収縮(PVC)と区別します。写真のように、心室期外収縮では正常の波とは異なる幅の広い波になります。どちらも一定の波のリズムより早く刺激が入ることで次の正常な脈が出現するのが遅れてしまい脈が途切れる感じ(脈の結滞)となり、これが続くと胸の不快な感じや違和感として自覚されます。
よく期外収縮は「心臓のしゃっくりみたいなもの」だから心配しなくて良いと言われてきました。実際に健康な人でも(私も)疲労、飲酒、ストレス、カフェイン、睡眠不足などで頻度が増えることはよくあります。しかし、時にこの「しゃっくり」が心臓の発するSOS「危険信号」となることも知られています。期外収縮の診療ではもちろん1日の回数や、出現する時間帯、連続して出現するかどうかなども必要な情報ですが、最も重要なのは「心臓そのものに病気が隠れていないか」、「そのサインとして期外収縮が出てるのではないか?」という点をきちんと検査することです。具体的には狭心症などの虚血性心疾患、弁膜症、拡張型・肥大型心筋症は期外収縮の原因となります。さらには、心臓とは別の病気(甲状腺機能亢進症、呼吸器疾患、睡眠時無呼吸症候群、電解質異常)が原因になっている場合もあります。そのため、当院では期外収縮が頻発している患者さんには心電図やHolter心電図だけでなく、心臓超音波検査や血液検査で原因をくまなく検索します。その上で、正常な心臓機能でかつ血液検査で期外収縮の原因が見つからない場合は、「心臓のSOSではなくしゃっくりですので、まずは一安心です」とお伝えしています。さて、そのような心配がない状態だとしても、「動悸」がどうしても気になって不安である、あるいは睡眠が妨げられるなどの日常生活に支障を及ぼす場合は、薬の処方を考慮します。心臓にある交感神経の受容体を阻害することで、脈拍を遅くしたり不整脈を抑える作用を持つ「β遮断薬」が最初に使用されます。それでも効果が不十分な場合は、心臓のイオンの流れを阻害することで不整脈を防止する作用を持つ「抗不整脈薬」を注意しながら使用します。注意しながらというのは、この抗不整脈薬はそれ自体が不整脈を誘発させたり、心臓機能を低下させることもあるからです。また、薬の治療で十分にコントロールできない場合、「カテーテルアブレーション」という細い管(カテーテル)を血管を伝って心臓まで挿入し、不整脈の発生部位を焼いて治療する方法も有用ですので選択肢の一つになります。
コロナによる自粛が続いて日中あまり活動せず、ついつい夜更かししてスマホでコロナウイルスの感染状況に関するニュースを見てしまうと、どうしても期外収縮が出やすく動悸も感じやすくさらなる睡眠不足を作る悪循環となってしまいます。ぜひ、日中は感染予防を講じ3密を避けながら体を動かし、家ではほっと一息ついてゆっくりとした時間を過ごして夜は早く寝ましょう。
私は週末は家でキャンプ気分を味わってリラックスしています。ひきたてのコーヒーの味は格別ですが、飲み過ぎには注意が必要ですね😊