17年前、道南の某基幹病院で研修医として勤務していたとき、その時の指導医の先生が毎朝、毎夕、担当患者さんの入院病床を回診されていたことを覚えています。地域では一番の急性期病院で担当患者さん30名以上を1日2回も回診するのはかなりの時間を要し大変なことですが、さらに回診の際には必ず床にご自身の膝をついて患者さんと目線を合わせてお話されていました。まだ新米で右も左も分からない自分でしたから、率直に先輩医師に「なぜ先生はそこまで患者さんと濃厚に接するのですか?」と質問したところ、「患者さんは最良の師であり、毎日新しいことを学ばせてもらっている」と答えられました。
今、ふとその言葉が頭をよぎります。そこから様々な経験をした今でも、複雑かつ精巧な恒常性維持を果たす人体、その恒常性の破綻をもたらす疾患に対して間違わずに診断し、全ての答えを導き出すのは到底困難であり、それが出来ると勘違いするのは医療者側の完全な奢りです。日々患者さんの訴えに傾聴しながら、客観的データと照らし合わせて一緒に考え、時にそれが完全につじつまが合う答えが見つかった時には私自身も大変勉強になることが多々あります。
新型コロナウイルス感染症という新興感染症もまた人類の誰しもが経験したことのない疾病であり、まさに患者さんからの訴えやデータから今の3密の回避が有効な防止策であることが分かったのですから、やはりいつも答えを導いてくれるのは患者さんなのです。実際に世界各国は日本の感染率や致死率が異常に低いことに注目し、3密の回避に相当する3C (① closed spaces, ②crowded places, and ③close-contact settings)を啓蒙するようになりました。
当院はお陰様で開院から多くの患者さんにご来院頂いておりますが、一方でどうしても診察でお話する時間が以前より限られてしまい、ご不都合を感じさせてしまっている患者さんには大変申し訳なく思っています。
どんな時でも「患者さんは最良の師」であり私もその訴えに常に学ばせて頂いておりますので、どうか何かお困りのことはどんな他愛ないことでもおっしゃって下さい。また、当院のスタッフは皆、心温かいものばかりですので、診察中に言えなかったことはお気軽におっしゃっていただければ幸いです。