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コロナワクチンの現場で何が起こっているのか

今日は、相次ぐ医療機関でのコロナワクチン接種のキャンセルで、現場では何が起こっているのか? についてお話します。

道内での新型コロナウイルス第4波は小康状態となりましたがいまだ収束せず、感染力の強い変異株(デルタ株)の出現や東京での第5波ともいえる感染再燃は、未だ我が国がこの感染症の脅威に曝されていることを示しています。個人が行うマスクや手洗い、3密回避、緊急事態宣言などの人流抑制だけでは収束は望めず、95%以上の発症予防効果が科学的に証明されたワクチンだけが唯一の切り札です。そのため、政府はこれまで積極的にワクチン接種を推進してきました。特に、65歳以上の高齢者では新型コロナワクチンによる重症化率が30歳代と比較し25倍以上と著しく高いため、札幌市では75歳以上、65歳~75歳と優先的に7月中のワクチン接種を目標に接種スケジュールが組まれました。札幌市では集団接種会場の設置が他の政令指定都市と比べて遅れたため、当初から高齢者はかかりつけ医での個別接種が推奨されました。高齢のためインターネットが使えず、集団接種の予約電話もつながらない状況で頼みの綱はかかりつけ医だけでしたので、各医療機関は予約の電話が殺到し通常診療に大きな支障をきたしました。しかしそれでも、現在は720もの医療機関がワクチン接種を担い順調に接種率は上がっていました。当院でもこれまで周辺医療機関の医療従事者 140回、かかりつけの75歳以上760回、65歳以上75歳未満 400回、計1300回以上のワクチン接種を実施し貢献してきました。

ところで、皆さんはかかりつけと思っていても接種を断られたり、いつもインフルエンザワクチンを実施している病院であってもコロナワクチンは行っていなかったり疑問がありませんでしたか? 

その理由は今回のコロナワクチンは取り扱い上も診療報酬上も『非常に厄介なワクチン』だったからです。

最初に本邦で使用が認可されたファイザー社ワクチンは保管に-80℃の超低温管理が必要でした。-80℃のディープフリーザーは大学などの高度医療機関で細胞や動物実験の検体保管で使用されるのが一般的で、普通は医療機関に備わっていません。通常、医療機関にあるのは家庭用と同じ4~8℃の冷蔵庫であり、ファイザー社ワクチンは4℃の保管だと5日間以内に使用しなければいけませんでした (現在は4℃冷蔵で1ヵ月間保管可能)。さらにファイザー社ワクチンは原液としてバイアル(容器)に入っているため生理食塩水で希釈して使用しますが、希釈した後は6時間以内に接種しなければいけません。1バイアル(容器)あたり6人分の接種ができますが、貴重なワクチンを一つも無駄にできませんので、初めから6の倍数の予約人数が必要で、かつ接種予定の患者さんに1人でもキャンセルが出れば、どこかから代わりの1名分を6時間以内に探して接種しなければいけません。

もちろん、持病や服用している薬が分からないと急な副反応に対応できないという医学的事由もありますが、このようにワクチンの取り扱い上も顔見知りで確実に来院が期待でき、かつ緊急の連絡先が分かっている患者さんになりますので、対象は必然的に定期通院されている患者さんに限定されます。

一方、診療報酬上の観点から考えると、コロナワクチン接種によって医療機関は『儲かる』のでしょうか?

答えは『ノー』です。患者さんは公費で接種できるため無料ですが、医療機関へ入る診療報酬は全国統一の単価で接種1回目、接種2回目とも共通の 2,070 円です。インフルエンザワクチンが1回 4,000円前後ですから、半額です。しかも1回打つたびに15分~30分間の経過観察を要し、アナフィラキシーなどの重篤な副反応への対応が必要なため狭いクリニックでは数がこなせません。さらには、接種のたびに国が接種数を把握するためのワクチン接種円滑化システム(V-SYS)への入力を要し、なぜか札幌市へはV-SYSとは別のシステムで毎週接種数の報告やアンケートへの入力、予診票の提出をしなければいけませんので、事務作業がインフルエンザの何倍も大変なのです。

保管が大変、予約も面倒、人手がかかる上に診療報酬は安い、事務処理はもっと大変。こんな状況でも当院を含む720もの市内の医療機関は使命感だけをもって、かかりつけ患者さんのために粛々とワクチン接種に尽力してきたのです。

しかしです。その懸命な努力を踏みにじるように、今度は国からのワクチン供給が低下したため市内医療機関へのワクチン配送がストップし、接種すらできなくなりました。政府は初めから6/28の週をピークにファイザー社ワクチンの日本への供給が低下することを知っていました。

以下に示す通り7月中旬からはピークの3分の2に減っています。

【第8クール】 6/21の週・6/28の週 16,000 箱

【第9クール】 7/5の週・7/12の週  11,000 箱

【第10クール】7/19の週・7/26の週  10,600 箱

一方、札幌市は上記期間では希望量の3分の1しか供給されないことが一昨日の緊急記者会見で明らかになりました。しかも8月以降はさらに少なくなります

【第9クール】 7/5の週・7/12の週  117 箱(136,890 回分)

【第10クール】7/19の週・7/26の週 113 箱(133,210 回分)

【8月以降の想定】各クール103 箱(120,510 回分)

初めから国からの供給量が3分の2に減ることが分かっているにも関わらず、なぜ今ぎりぎりになって札幌への供給量がさらに希望の3分の1まで減ってるのでしょうか?

これはそもそも札幌市から国への希望量が初めから多く見積もっていたことや、政府が札幌市への供給を接種実績が少ない(在庫を抱えている)とみなし、配分を減らしたことが原因と考えられます。それでは、政府はどのように自治体における接種数を把握しているのでしょうか?

現在、ワクチンの管理システムは2つあります。V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)VRS(ワクチン接種記録システム)です。ワクチンの入荷量はV-SYSを介して国、地方自治体、ワクチンメーカーに情報が共有され、各自治体へワクチン割当量が決められます。おかしなことに、V-SYSとVRSはシステム連携していないので、各自治体は医療機関から回収した予診票をもとにVRSに接種実績を入力しています。国ではこのV-SYSによる供給量とVRSの接種実績に差が多いところは在庫を抱えている自治体とみなして供給量を減らし、2つのシステムの実績に差が少ない自治体を在庫量の少ない自治体として優先的にワクチンを配分したのです。VRSの入力は予診票を回収して札幌市担当部署が入力していますが、当初は1週間毎の予診票の回収であったため入力が滞っていたことや、札幌市外からの接種の場合、VRSに接種実績が反映されないことがネックとなり、札幌市ではV-SYSで請求した量の割には、VRSの実績報告では接種数が少なく、差が生まれました。

結果、大阪や札幌はVRSの接種実績からワクチンの在庫があるとみなされ、人口に応じて割り当てられるワクチンの配分量が大幅に減らされました。

このようにワクチンの配分量が減らされたのは我々医療機関の落ち度でしょうか? 明らかにワクチン管理システムの問題や、国と自治体の連携不足、自治体の在庫管理の不備が原因ではないでしょうか?

国からの配分量の激減を受けて、札幌市は7月2日に『65歳以下の基礎疾患を有する患者の新規予約受付中止』を通達し、さらに7月13日には『7月16日から7月25日までの医療機関へのワクチン配送を全面中止』を急遽通達してきました(参照:STVニュース)

札幌市は医療機関への配送は中止する一方、大規模接種会場にはワクチンを集約させています。この理由について市からの回答では、集団接種会場は予約時に連絡先を把握しておらず、予約した方への連絡ができない状況でキャンセルは大きな混乱を招くことが想定されるとしています。我々だって予約頂いた患者さん一人一人にキャンセルの電話をするのは心苦しいですし何より信用を失います。また、通院中の患者さんは誰しも集団接種会場ではなく、かかりつけで接種することを希望されます。せめて、2回目のワクチン接種の方は、1回目を接種したかかりつけ医で打てるよう、集団接種会場の配分を各医療機関に回すべきではないでしょうか?


当院は昨日からスタッフ総出で既に予約を受け付けている約200名の患者さん一人一人にキャンセルのお電話をしております。これまで一人でも多くの周辺の医療従事者、地域のかかりつけ患者さんにワクチンを接種し北区 麻生地域のコロナウイルス感染症の拡大を阻止すべく必死に貢献して参りましたが、このような国や自治体の都合による配送ストップによって、これまでの努力が無に帰するのが悔しくてなりません。これまで国や札幌市はさんざんワクチン接種を推進してきましたが、それに従って接種を進めてきた私達はまさしく「はしごを外された」のです。

日々の忙しい診療の中、発熱外来も担いながら平日にワクチン接種を実施するのは非常に困難であったため、5月30日 (日)、6月20日(日)、6月27日(日)と毎週日曜日を削って小さなクリニックにも関わらず1日400名の接種を行なってきました。にも関わらず、札幌市は7月26日以降の発注は、7月3日(土)~7月9日(金)のV-SYS の接種実績等から医療機関への配分割合を算出するという通知が出されました。つまり、当院がこれまで休日返上で行ってきた接種実績は全くとして加味されず、実際にワクチン配送が再開となる7月26日(月)からの1週間の当院への配送分は、なんと「3バイアル(18人分)」です。

たった3バイアル(18人分)のワクチンで1週間の予約分おおよそ120人の接種をどうやって行えというのでしょうか? ほとんどをキャンセルするしかありません。。

「大変お世話になっております。あさぶハート・内科クリニックです。報道にもありますように市からのワクチン配給が停止し、誠に残念ながらご予約頂いているワクチン接種はキャンセルとさせて頂きたくご連絡差し上げました…」 

今日も当院スタッフが不本意で心苦しくも皆様に直接お電話でキャンセルのお願いをしております。

なぜこのような事態になってしまったのか… 当院のかかりつけ患者さんの健康状態は誰より知っておりますし、1300回以上のワクチン接種を実施してきた当院の熟練したスタッフであれば、あっという間に接種は完了するはずでした。しかし、肝心のワクチンがなければ成すすべがありません。

『矢弾尽き果て散るぞ悲しき』 

太平洋戦争末期に日米両軍が激戦を繰り広げた硫黄島で旧日本軍の 栗林中将が残した言葉です

今、まさに同じことがワクチン接種の最前線で起こっています。