ブログDIRECTOR'S BLOG

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Apple Watchによる自宅での健康管理

ワクチン接種や感染予防策の徹底にも関わらず新型コロナウイルス変異株の全国的な感染拡大に歯止めが効かず、北海道にもまた緊急事態宣言が出てしまいましたね😔 当院もかかりつけ患者さん、特にハイリスクとなる高齢者には一刻も早いワクチン接種を促し実施して参りましたが、その成果もあってか高齢者の感染は抑えられ重症化する人は少なくなったものの、ワクチン未接種の若年者の感染が増加しており、札幌市でも軽症例の自宅療養者の数がどんどん増えています。

先日、この増加した自宅療養中のコロナ患者さんに対応すべく、北海道知事・札幌市医師会長が連名で電話やオンライン診療を用いた自宅療養者の積極的なフォローアップを提言されており、当院も少しでもご協力できるよう検討中です。

とはいえ、やはり病院ではなく自宅で療養すること自体、とても不安に感じられることも多いかと思います。入院中は通常、心電図や酸素飽和度などが常時モニターされ、さらに1日2-3回看護師によるバイタルチェック(血圧、脈拍、呼吸数、体温などの測定)がありますから、やはり何かの異変には気付きやすい環境にあります。一般的に酸素飽和度は96~99%あれば正常です。しかし、新型コロナウイルス感染症による肺炎では酸素濃度が低下していても息苦しさなどの自覚症状が乏しい、いわゆる「ハッピー・ハイポキシア」=「幸せな低酸素症」を起こすことがあるので注意が必要なのです。酸素飽和度が93%以下になると、コロナ感染症の重症度としては中等症IIに該当し、速やかに酸素投与が必要になります。つまり、その兆候に早く気づくには、定期的に酸素飽和度を測定する必要があり、今や酸素飽和度を測定するための医療機器「パルスオキシメーター」は医療施設だけでなく、一家に一台必要な時代になっているのかもしれません。ただ、このパルスオキシメーターもニーズの高まりによって生産が追い付いていないようで、コニカミノルタなどの大手メーカーのオキシメーターは既に品薄で高額で転売されているようですよ😔 


そうはいっても軽症例では入院できず、自宅療養で健康観察するしかない現状で、自宅で健康管理をする最も良い方法は何でしょうか?

有力なツールとして期待されるのはApple Watchだと思います。Apple Watch Series 6では酸素飽和度(動脈血中の酸素濃度、SpO2)が測定でき、さらにiOS 14.4とwatchOS 7.3のアップデートによって本年1月から不整脈(特に最も頻度が高い心房細動)の兆候を早期に検知するための心電図アプリが利用できるようになりました。

 

そこでこのApple Watchによって酸素飽和度を定期的に観察するのはどうでしょうか?もちろん、Apple Watchは医療機器として認可されておらず、測定原理もパルスオキシメーターと大きく異なるため誤差が生じやすいという前提での使用になりますが、絶対値ではなく日々の変化量を見る目的であればある程度目安にはなるかもしれません。一方、心拍数や不整脈検出についてはかなり期待がもてます。実際に、アメリカのスタンフォード大学で、約42万人にApple Watchを装着して行った研究 (Apple Heart Study)では、アプリで不整脈が検出された人の34%で心房細動が確認され、陽性適中率(検査結果が陽性と出た人のうち真に病気を有している人の割合)は84%と高い精度を示しました(N Engl J Med 381: 1909-1917, 2019)。ただ、まだまだApple Watchだけで不整脈の診断をつけるのは精度として厳しいものがありますが、当院にもApple Watchで不整脈が検出されたため来院し、24時間ホルター心電図で精査した結果、最終的に心房細動という確定診断がついた患者さんが数例いらっしゃいます。

Apple Watchで検出された不整脈はパソコンでPDFに保存することや印刷することもできて、案外と綺麗に記録されます。このレベルなら病院の心電図モニターくらいの画質という印象です。ただし、Apple Watch以外の心電図機能が附帯したスマートフォンではノイズが多くて、ほとんど役に立たたなかった経験もありますのでご留意下さい。特にApple Watchを付けて注目して欲しいのは実は心電図波形そのものではなく、心拍変動です。実際に上述した心房細動が検出された患者さんも、急に心拍数が早くなる(150回/分以上になる)イベント(図ではスパイク状に記録)がApple Watchで見事に捉えられていました。

このような心拍数の変化は「心拍変動:Heart Rate Variability, HRV」と呼ばれており、不整脈の検出だけでなく新型コロナ感染の診断にも有用な指標ではないかと最近注目されています。これは炎症反応が起こると心拍変動が変化することが分かっているからで、実際にアメリカのマウントサイナイ医科大学が最近、観察研究として行った研究結果では、コロナに感染していると心拍変動が小さくなると報告しています(図ではコロナ陽性者は赤色の線で示しており、Bの図では心拍変動の波が低く緩やかになっていることが分かります)Journal of medical Internet research 23: e26107, 2021.より引用

このようにApple Watchは心拍変動、不整脈の検出、酸素飽和度測定の3つ同時にリアルタイムに測定可能なため、コロナ禍における自宅での健康管理に有効なツールになるかもしれません。ただ、これだけだと重要なバイタル(指標)である血圧や体温が抜けていますので、そこはぜひご自身で自動血圧計による血圧測定、体温測定を毎日実施して頂き、それらのデータを当院も全面的にバックアップしている高血圧アプリ「すこやかダルマ」へ入力してくれると、さらに家庭での健康モニタリングが質の高いものになります。特に、「すこやかダルマ」はオンライン診療との相性がとても良く、オンライン診療を受けながら自宅の血圧・体重・体温・活動量などの客観的データを医師と共有して診療できるシステムLogmoni)が使えるため、大変便利ですよ😊


コロナ禍によって医療ソースが限られる中、『Apple Watch+すこやかダルマ』などのICTデバイスによって自宅での健康管理や自宅療養がどこまでサポートできるかは今後さらに注目されるでしょう。現行利用できる機器やシステムを最大限に駆使し、この難局をどうにか乗り越えられることを切に願っています。