ブログDIRECTOR'S BLOG

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放置すると恐ろしい高血圧

今日は高血圧についてお話したいと思います。コロナの影響で延期となっていた健診の結果がそろそろ出た頃ではないでしょうか?

『血圧高値、要精査』などの判定を受けていませんか? そういえば去年も指摘されていたけど、病院行くの忘れてたなんてことはないでしょうか。

世界的には健康フードとして注目されている『和食』ですが、味付けとして塩やしょうゆ、出汁が使われているため、塩分摂取量はどうしても高くなります。その結果、世界保健機構(WHO)が推奨する塩分摂取量5g/日を遥かに超える10g/日を日本人は平均的に摂取しており、『塩中毒』にかかっていると言えます。この『塩中毒』の原因は塩分の過剰摂取だけでなく、塩分の排泄にそもそもブレーキがかかってることも原因です。原始時代に人類が海から陸へと生存の場を求めて進出する際、塩分不足に直面しました。そこで、進化の過程で腎臓において塩分を尿に排泄させずに体内にため込む(再吸収する)ホルモン(レニン―アンジオテンシン―アルドステロン系、以下RAS)ができたと言われています。RASは腎臓において塩分・水分の再吸収を促すだけでなく、腎臓の血圧を一定に保つよう血管を収縮させる作用があります。しかし、そんな『わずかな塩でも生きられるためのホルモン(RAS)』も現代社会では無用の長物となり、体内の塩分・水分を過剰に増加させて血液量を増やし、血管を収縮させて結果として『高血圧』を招きます。さらに近年は摂取する塩分量が同じでも、遺伝的に塩分をため込みやすく血圧が上がりやすい食塩感受性高血圧と、塩分をため込みにくく血圧も塩分では上がりにくい食塩非感受性高血圧がいることが明らかになり、日本人では多くが前者(食塩感受性高血圧)であることが分かっています。その結果、日本での高血圧患者数は予備軍も含めるとなんと4300万人、人口の約1/3が高血圧を有しており、そのうち7割が未治療または血圧管理で十分ではなく、さらに3割は高血圧としての認識すらない状況です(図参照)。一方で、高血圧に起因した脳卒中や心筋梗塞、心不全などで年間10万人の方が亡くなっているのです。まさにサイレントキラーです。

高血圧は心臓にどのような影響を及ぼすでしょうか。心臓は血液を全身に巡らせる『ポンプ』ですので、血圧が高いということは全身に血液を送り出す際大きな力が必要になります。例えば、100 mmHgの血圧の人は150 mmHgの血圧の人に比べて1回の血液を拍出するために、心臓に1.5倍の力がかかるとして、実際は心臓は1日10万回も血液を送り出し続けますので、1.5倍の10万回分というとんでもない負荷がかかるのが容易に想像できます。心臓はもともと心筋細胞という筋肉の細胞からできていますので、1日10万回の負荷を毎日かけ続けると、ハードな筋トレをしているがごとく心筋は分厚くなり肥大します。これが『心肥大』という現象です。心肥大と聞くと筋肉が大きく強くなってポンプとしては収縮が良くなりそうと思われるかもしれませんが、心臓は絶えず縮んで(収縮し)広がる(拡張する)ので、心筋が分厚くなると広がりずらくなってしまうのです(拡張障害と言います)。心臓をゴム風船に例えると、ゴムの分厚い風船は膨らませずらいことでイメージができるでしょう。心肥大となった心臓にさらに高血圧によって圧力をかけ続けると、肥大することで対応しきれなくなった心筋は外側に引き延ばされて徐々にゴムから線維(硬い弾力を失った組織)に置き換わり、収縮しなくなってポンプとしての働きが悪くなります。このようにして、心臓を高血圧に曝し続けると、求心性肥大(心筋が内側に向かって厚くなる)→遠心性肥大(心筋が外側に向かって大きくなる)+線維化へと形態が変化して、最終的には血液の循環が滞ってしまう心不全という状態に陥ります。高血圧による心臓の変化は実験動物(ネズミ)を使うとよく観察できます。ネズミの心臓から出ている大動脈を糸で直接縛って遮断すると、求心性肥大から遠心性肥大とともに、青く染まる線維化組織へと置き換わるのが分かるでしょう。

このように、高血圧から心肥大になっているということは心不全になりかかっている(隠れ心不全)状態であり、心不全の分類でいうとstage B=心不全予備軍に該当します。さて、もう一度健康診断の結果を見てみて下さい。高血圧以外に、心電図の項目で「左室高電位」や「ST低下」、「左室肥大」、あるいは胸部レントゲンで「心拡大」などの所見が出ていませんか? これらの所見もあればぜひ心臓超音波検査を受けましょう。心臓超音波によって左心室の肥大や、左心室に血液を送り込む左心房が圧力に負けて拡大する左房径の拡大(あるいは左房容積の増大)が観察されたら、すぐに薬による厳格な血圧管理が必要になります。


心肥大は薬剤による適切な降圧治療を早期に受けることで元の心臓の形態に戻る可能性が高くなります。しかし、長年放置してしまうと心筋はどんどん引き延ばされて弾性の失われた線維化組織に置き換わってしまい、薬でも元に戻せなくなります。高血圧による心肥大(高血圧性心疾患)は心不全の主たる原因であり、高齢者に多いですが、最近では若年でも肥満をきっかけに高血圧となり、高血圧性心疾患を合併する患者さんが増えています。

高血圧は脳卒中、腎不全、心不全の原因となる万病の元です。健診での『高血圧の要精査』は放置することなく、『心肥大』の合併がないかどうか、心臓超音波検査で確実に精査し、高血圧性心疾患の診断がついたならば、すぐに適切な降圧剤による治療を受けましょう。

人生100年時代においてたった一つしかない心臓という大事なエンジンをいかに長く良い状態で持たせるかは、あなたの血圧管理次第と言っても過言ではありません。日頃から減塩 (6g/日)、有酸素運動、減量に努め、家庭にて血圧を測定し、それでも血圧が高めな方あるいは健診で血圧が二次精査に該当した方は、ぜひ当院へお気軽にご相談下さい。